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2008年度 社会学科 鵜飼ゼミ 卒業論文 相互批評集

YM著

桐野夏生の小説におけるリアリティ ―小さな実感の重要性―

本論文では、桐野夏生の小説が、その舞台設定が非日常的であるにも関わらず、読後にリアルな小説だったという印象を持つのは何故かという疑問を発端として、桐野の小説におけるリアリティについて考察した。第一章では、桐野は江戸川乱歩賞というミステリーの新人賞を受賞してデビューしたが、今の桐野が書いているのはミステリーなのかどうかという点を考えた。第二章では、ミステリーというジャンルから自由になって桐野が書きたかったのは、桐野自身の言う「虚構の中の実」であるととらえ、その内容を示した。桐野は現実を「きわめて個人的で荒々しく過酷でありながらもどこか滑稽」なものであるととらえており、それを小説という虚構の中に生みだそうとしていた。そのために必要になる、小説における非類型についても論じた。第三章では、これまで論じてきたことが桐野の小説『東京島』にどう表れているかを、舞台設定や各登場人物に注目して検証した。そして、具体的で個人的なエピソードを持って個人を子細に描写することによって、読み手に虚構の中で「実感」を体験させることが、桐野の小説において最も重要なリアリティなのではないかということを結論とし、主張した。

[キーワード] 桐野夏生 小説におけるリアリティ 東京島
YM論文への批評
この論文を読んで、桐野夏生の小説(特に論文で取り上げられている『東京島』)を読んでみたい!と強く感じた。構成としては、各章末にまとめとして筆者独自の意見がしっかりと述べられており、またこれまでの記述が後の章へどうリンクするのか明記されているため、論文に一貫性が感じられ、読みやすい。また、随所に桐野夏生のエッセイからの抜粋が用いられていて、桐野夏生を知らない人にとっても、作家本人のミステリーに対する考え方を理解しやすい点が良い。
この論文は「桐野夏生の小説は、非日常的な舞台設定にも関わらず、読んだ後にリアリティを感じさせる」という、桐野夏生の小説に対する筆者の印象が大前提となっているが、筆者以外の人が桐野夏生の小説をどのように捉えているのか、といった調査が盛り込まれていても面白いのではないかと思う。
(KOK)
個人的に「ミステリー小説」は好きなジャンルだったので、「ミステリー小説」についての分類は興味深く読み進めることが出来た。ただ、全体を通して「桐野夏生」さん自身のスタンスと作品(特に『東京島』)の紹介文になっているような気がする。「桐野夏生」さんの本に描かれる「虚構の中のリアリティ」を、現代の社会現象や社会問題とリンクさせて比較検討を行ったり、「桐野夏生」さんの小説の登場人物の心情や行動、あるいは内容から、現代の社会現象や社会問題を読み解くという試み、または「なぜ『桐野夏生』さんの本は今注目されるのか」という問題を検証してもらいたかった。ただ、「矛盾や細かな描写から連想する読み手の小さな実感の積み重ねが、リアリティを感じることに繋がる」という結論には納得がいった。
(NT)
文芸評論という形を借りた「文学の社会学」を試みる、野心作として読みました。小説の中に社会の反映を見るという視点ではなくて、小説というフィクションからどのように社会的リアリティが構成されるか。これを理論化するところまでいけば学会賞ものですが。
(UK)